まず、服地の「地のし」をします。十分な水蒸気を服地に与え一昼夜ねかせます。その後低温のアイロンで十分な時間をかけ服地の歪を取り除きます。また数%縮重することで羊毛本来の弾力を取り戻し、風合いと耐久性を向上させます。
次に仮縫いです。オリジナルパターンどおりに服地を仮組みし、実際にお客様に着用していただき寸法・機能上の不具合を発見調整し、デザイン上の微調整を行います。さらに仮組みを解き、補正をします。各部の寸法確認、ここにしかないというくらい正確に決めたアームホール位置、服地とのマッチング、ディテール・シルエットの微調整などすべての要素をバランス良くオリジナルパターンに盛り込み修正します。
ここから本縫い工程に入ります。本縫いは、ベテラン職人が隅々まで気配りしながら一人で仕上げます。縫い糸はすべて絹100%の縫い糸を使用します。これは縫い目の自然な伸縮と強度を保証し、衿穴やハンドステッチを引き立ててくれるからです。ポケット、襟などの作りは手工芸的な繊細さに溢れています。また、張りと弾力のある「毛芯」仕立てはハンドメイドによりその長所が生かされます。それはシワに対する復元性能のみならず、毛芯の反発力を利用し、肩先に十分な空間を確保し、服の安定度と、機能性を保つというきわめて高度な技術で、量産品では困難な「肩グセ・前肩」仕様を可能にしています。
さらに背広の仕立ては「衿、肩、袖」が難所です。特に袖付けは前肩を活かしながら、下側の袖を美しく取り付けねばなりません。この点が最も技術的に困難とされています。量産品は、大きなアームホールと服地を変形させるプレス法で下側の袖の問題を解決するのに対して、ベテラン職人は袖の躾糸をかける針の角度と深さ、イセ込み量(縮小量)の配分と、ミシンの方向によって解決します。ハンドステッチ、ボタンホールの始末をし、シルエットを整えて最後に仕上げをしますが、そこから人台にセットし約1週間の自然乾燥を経て完成します。